2012年5月6日日曜日

HDDから愛を込めて2


お気に入り。その2
SFですね。
当時生物にはまってました。

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エンブリオ

胎生の生物ならば、その課程をたどる。
だから僕はそう名付けられた。

僕はいわば「そんな」ものらしい。
「そんな」ものを一体どうするつもりなのか。
僕の問いかけに彼等は答えた。

「ライフサイクルの意味がわかるか?エンブリオ」

僕は少し考えて納得した。

「僕達は幼いんだね」
「そう。まだ、とても幼い」

そして続けた。

「だから未来の夢を見る」

彼等はロマンチストだ。
だから「僕」みたいなものが生まれた。
僕はそれから、自分の事がちょっとだけ好きになった。


◆◆◆


少し僕の事を話そう。
僕は新しい「生命」らしい。

「両親」は彼等と同じ生物で、僕は「誕生」するときに
少しだけ「操作」された。
その「操作」の効果が僕というわけだ。

だから、彼等から生まれたものでも、彼等とは種を異にする。

エンブリオ。
それが僕の名前。

彼等はいう。

「未来を紡ぐ手段を手に入れた」

彼らはとても無邪気だ。
それを使うのは、きっと僕ではなく、「彼ら」の未来だろうけど。
そういう僕に彼らは笑う。

「大差ないさ」

そういって僕の頭を撫でた。


◆◆◆

素敵な話を聞いた。

生命が誕生するまで、受精卵は成長につれ進化の過程の過程を辿るという。
たとえば、魚だったり、とかげだったりするのだろうか。

僕はそれを覚えてない。
だけど生まれてくる前に、僕は世界中の生命を体験している。
だとすると、きっともっと先の未来。
いつか生まれる「誰か」は、生まれる時に「僕達」を経験することになる。

その様子を想像して、僕は少し楽しくなった。

「素敵な思考だ。エンブリオ」

彼等は夢見るように笑う。

「それが分かれば世界中が愛せるさ」

でもまだ僕はここにいる。
そういうと、また彼等は笑った。

「それでいいんだ。エンブリオ」

◆◆◆

エンブリオ。
発生して八週目までの胎児をそう呼ぶ。

それが僕の名前。
彼等なりの洒落と希望。
僕は彼等より少しだけ先の未来。

「ガキってのはそういうものさ」

彼等は笑う。
もう少ししたら、違う名前の「誰か」がやってくるだろう。
僕がここにいるように。
遠いいつか「誰か」は僕らを思い出すだろうか。

「誰か」の時代。
「彼等」の存在。
「僕」という過程。

そういう僕に彼等は笑う。

「お前は誰だね、エンブリオ」

僕は少し考える。

「大差ないね」

僕も、笑った。

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とても気に入っているフレーズが
実はこの中にあります。



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